工務店の家守り術 私の「家守り」スタイル⑦

> 2010年 1月30日  P84/P85/P86/P87 掲載
 ・ 新建新聞社
   工務店のための実務ノウハウ  『新建ハウジング プラスワン』 No.503
私の「家守り」スタイル
  人の暮らしを支える工務店 -その7-

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〓 人付き合いにはいろいろな感情が。
「満足」「喜び」を引き出すために 〓


アフターの人材や方法 悩み抱える工務店

 約1年にわたって展開してきた連載も、今回が最終回となりました。

 リノベーションのことからアフター・メンテナンスのことまで、当社の「家守り」のスタイルを中心にお伝えしてきましたが、生涯にわたってお客様の暮らしに寄り添い、家にまつわるさまざまなフォローを行っていくのは工務店の基本姿勢だと思っています。

 しかし建てた後のことまで手がまわらない、OBのお客様との接点をどうつないでいいのかわからないなどの声もよく耳にします。そこで、よく聞く「家守り」の問題点と解決策について、新建ハウジング編集部とのやり取りで話したことを、Q&A形式でまとめるかたちでご紹介します。

気になる点は施主に忠告 いい関係を築くカギ

【編集部】―いろいろなアフターの具体例を紹介いただいてきましたが、ある意味で肩の力を抜いた、気軽な関係を築いているように見えます。どのような心持ちで顧客と接しているのですか。OB顧客からの電話が「怖い」「嫌だ」と思う】」とはないですか。
 基本的に、お施主様からの電話が「怖い」と思うのは、施工時に何らかの問題や気になることがあった場合だと思います。「あのことに関するクレームではないか」と考えてしまうのですね。

 実際、人間のすることですから、完璧なことはありません。しかしだからこそ、気になることがあれば、起こり得る問題を施工する前にお施主様へきちんとお話し、そのうえで施工するなり、別の提案をするなりといった対応をとるべきです。

 そして、確実に問題が起きると判断したときは、毅然とした態度でその内容を伝え、たとえば「この仕様はこういう理由でできません」と、はっきり断ることも必要です。

 断ったら嫌われてしまうのではないか、仕事をさせてもらえなくなるのではないか、などと考えがちですが、相手のことを考え、そのほうがプラスになることをきちんとお話すれば、思いは伝わると思います。

 ただしそれでも、自分の意思を貫きたいお施主様もいるでしょう。その場合は打ち合わせ事項を記録として残すことが大切です。後日、起こり得る問題がやはり起きたとしても、事前に「確かに忠告していた」という記録が残っていますから、そのことで一方的な責めを受けることはありません。

 お施主様も「忠告してもらったのに、自分が聞かなかったのでこうなってしまった」と感じ、問題の解消のために相談してくるのではないでしょうか。

 そのときは「だから言ったのに…」という態度をとるのではなく、具体的にどう対処したらよいかをプロとして提案することです。プロだから頼られているわけですし、また答えも導き出せます。

 結局、満足度アップは、そうしたことの積み重ねですね。人と人のお付き合いですからいろいろな感情があると思いますが、楽しみや喜びもまたそこにあるのだと思います。

常に情報発信に心がけたい

―マンパワーや資金力の不足を補いOB顧客といい関係を続けていくため、多くの工務店が「ニュースレター」や「イベント」などを行っていると思います。しかし疎遠になってしまった場合、あるいは疎遠になってしまっている場合、接点を回復するにはどうしたらいいのですか。
 疎遠になるということは、自分からのアプローチが不足しているということですね。そうした場合は、こちらから出向いたり、電話で近況を知らせたり、相手の様子を確認したりする必要があると思います。私の場合は年に数回、そんなことをやっています。

 たとえば新築当時のファイルを見直して、これからメンテナンスが求められる場所などを話題にし、そのときに必要な資金や手続きなどをわかりやすく説明してあげるのも一つの策。また仕事以外でも、趣味や生活に関して相手にお得だと思われる情報があれば、伝える努力をすることだと思います。

 情報発信は常に心がけていますね。確かに自分がされて嫌になるようなお付き合いはごめんですが、お施主様へ連絡するタイミングはいつがいいのかとか、とくに決まったルールを自分のなかに持っているわけではありません。季節の変わり目とか、なんとなくその家族を思い出してしまったときです。

 実際、あまり深く考えず、なにげなく電話で近況確認することが多いです。「何も用事はなかったのだけど、どうしているかなぁと思って電話してみました」と。

 そんなときに限って、お施主様の方からも「なんとなく大滝さんのことを考えていた」と言われることが少なくありません。奇遇なものだと思います。

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親和創建の「完成建楽会」。OB顧客にも必ず連絡ハガキを送る。
ハガキが到着した段階で電話をもらうことも多い。

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年1回、会社敷地内で行う夏祭りのイベント

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夏休みの時期になると、親和創建の作業場には毎年必ず数組のOB顧客が親子工作の相談に訪れる。

話下手でも一生懸命伝える 女性スタッフの活用も

―一般論ですが、よく大工・職人は口下手・話下手と言われます。「情報発信」「コミュニケーション」と言われても、家業型の大工工務店で現場に追われていたりすると、なかなか一歩踏み出せないのではないでしょうか。何かいいアドバイスはありますか。

話の下手な大工でも、一生懸命に伝える姿勢、
相手の身になって聞く姿勢は施主に伝わっていく


 当社は、私と事務の女性以外、全員が大工さんです。確かに、大工・職人さんで話下手な人は多いと思います。そのため、言葉が少ないゆえのすれ違いがあったり、先入観による思い込みでボタンの掛け違いをしてしまったり。

 かなり前のことですが、現場で「おはようございます!」と声をかけても職人さんの誰からも返事が返ってこなかったので「この現場ぁ、誰もいねえのかあ!」と啖呵を切ったことがあります。すると、そこかしこで「おはようございます」とボソボソ小さな声があがりました。

 いくら職人さんでもあいさつくらいは気持ちよく交わしたいという気持ちだったのですが、そうした具合に、悪気はどこにもないのに損をしてしまっている面も多々あるように思います。

 そのため、口下手・話下手と思われる大工さんは、お施主様と話すとき、思ったことを再度お互いに確認するという行為を一つ足してはどうでしょうか。

 たとえば、話すことが苦手であれば絵や図を描いて表現する。そのほうが視覚に訴えることができるので、よりよいコミュニケーションがとれたりもします。

 「俺は話下手だから、うまく説明できないんだけど・・・」と前置きをしながらも、一生懸命に伝えようとする姿勢や、相手の身になって聞こうとする姿勢は、知らず知らずお施主様に伝わっていくはず。またそこが、好感度になったりもするわけです。

 しかし、家族というものは世帯主のお父さんだけではなく、お母さんをはじめお祖父さん・お祖母さん、子どもたちもいるわけですから、一人で話を受け止めるのは大変な技量が要りますね。そういう意味では、パートでも女性スタッフがそばにいるととてもよいと思います。

 女性の活用は、アフターに必要なマンパワーの不足を補うことはもちろんですが、こちらの説明とお施主様のとらえ方に矛盾を感じたとき、客観的な意見を求めることができる存在としても有効でしょう。

 ただしパートさんでも知識は必要で、自分たちの会社の住まいの特性くらいは説明できないといけない。また住宅業界で話題になっいることも、できれば知っておいてほしい事柄です。そうした知識があまりに欠如していると、アダとなる場合もあるかもしれません。

 しかし、活用の場を設定して役割を明確にしてあげることで、それは解消できます。また仕事にやりがいがあれば、自ずと知識もつくと思います。あとはお施主様が心地よく居られる空間(事務所や見学会場など)をつくり、その場の聞き上手になってあげることに重点をおいて立ちまわってもらうことです。

家は人の「生き方」を具現化 前向きに楽しく生きる

―そうしたなかで大工・職人が持っている知恵が住まい手に伝わり、家を長く大切に使おうという意識へつながっていけばいいですね。家と人とのお付き合いを通じて提供できる豊かさ、得られる豊かさとは、大滝さんにとってどんなことですか。
 家は植物や動物と同じで、話すことこそできませんが、何らかのシグナルは常に発信しています。自分も含めお施主様ご家族も日々忙しく、生活していくことだけで精一杯なのですが、ほんの少しまわりに目を配れば、家はたくさんのことを伝えてくれる気がします。

 それは自分の感性を磨くこと、季節を楽しむこと、いろいろなことに興味を持ち体験すること、年齢や性別に関わらず人とのつながりを大切にすること、自分の弱点を誰かから補ってもらうこと、人の弱点を補ってやること、人間以外も愛しむこと。そうしたことと無関係ではない気がします。

 そしてそんな風に過ごしていると、自然にたくさんの人やものと仲間になれます。そこから、生きることについて多くのことを学ぶことができ、そのなかからまたお施主様ご家族とのコニュミケーションが広がります。

 上手く付き合うという感覚ではなく、まるごと受け止めたり、受け止めてもらったりしているような感覚ですね。ですから、まだまだな私自身を実感し、日々努力しています。
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親和創建の断熱改修(リノベーション)。
施主が住みながら行うこともあり、大工・職人とのつながりも生まれる。

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親和創建のほとんどの社員が大工。現場が終わると必ず集まって夕礼を行い、進ちょくや問題点などを話し合う。「完成建楽会」のスタッフも大工が務め、顧客対応の窓口になる。

OB顧客といい関係を続けていくコツ

①物事のメリット・デメリットをきちんと伝えること
②伝えるのが下手だからとあきらめないこと
③施主を突き放さず常にいっしょに解決策を探ること
④一人でやろうとせず仲間(たとえば女性スタッフ)の力を借りること
⑤自分自身が豊かだと思う生き方を実践すること



●連載の終わりに
 このたび、新建ハウジングプラスワンで7回の連載を受け持つ機会を与えていただきました。どのくらいお役に立てたかはわかりませんが、多少なりとも自分たちのやってきた事例を参考にしていただけたら幸いです。

 家を建てるということは、そのご家族の人生において大きな大きな出来事です。建てる前の段取りから過程を楽しみ、できあがって喜びが満ちてくる。そして今度は、そのご家族は住まうということを始めます。そのときに頼りになるのが、「家守り」工務店です。

 建てた後も、その家族が織り成す人生のなかで、何回となく家にまつわるお手伝いをさせていただけるのが、私たちの仕事の素晴らしいところだと思います。たくさんの人生のなかで、ほんの少し背中を押してあげたり、思いとどまらせたり、いっしょに泣いたり笑ったりできるような楽しい仕事、やめられないですよね。

 お施主様とともに、お互い楽しまなきゃ損。いろいろ厳しい時代ですが、がんばっていきましょう。『笑う門には福来る』で、きっといいことはやってくる。読者の皆様には、長い間お付き合いいただきまして本当にありがとうございました。
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by shinwasouken | 2010-01-30 16:00 | 連載-新建ハウジング +1
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あなたの住まいを一緒に育てたい


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